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2025.01.09

劇団四季の子役指導に聞く 子どもの可能性を広げる「嘘をつかない」指導ポリシー

子どもが楽しそうに好きなことに取り組んでいる様子や、興味を持ったことに打ち込む姿を見ると、親としてできる限りのことをしてあげたいと思うもの。しかし、どのようにフォローすることがその子に最適なのか、悩んでしまうこともあるのではないでしょうか。
今回は、日本最大の演劇集団である劇団四季で、子役指導という立場で子どもたちに携わる遠藤剛さんにインタビューを実施し、指導する上で大切にしているポリシーや、関係性の築き方などについてお聞きしました。子どもの可能性を広げる接し方、自己成長につながるサポート方法はあるのか、紐解いていきます。

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子役指導を担当することになったきっかけ

今は子役指導に従事する遠藤さんですが、入団からの数年間は俳優として活躍していました。そもそも、劇団四季を目指すことになったきっかけはあったのでしょうか。

「それまで舞台の世界とは無縁でしたが、高校2年生のときに、全国ツアー公演で地元・岩手県で上演された劇団四季の『夢から醒めた夢』を観て、衝撃を受けたんです」と、感動の記憶を辿ってくれた遠藤さん。その体験がきっかけとなり、大学在学時に挑戦した劇団四季の創立50周年記念オーディションで、見事合格。大学卒業と同時に入団し、『ライオンキング』エド役などを演じてきました。

俳優から子役指導に転身した理由を聞いてみると、「2010年の『サウンド・オブ・ミュージック』開幕に向けて、劇団内で子役指導担当を探していたんです。子役の配役が多い演目なので、専任が必要だったんですね。そのタイミングで、担うことになりました」とのこと。

『ライオンキング』にも子役が登場しますが、それまでは出演する大人の俳優が、子役の指導を兼ねていたといいます。初めて専任の役割へとシフトしていく機会に、大きな決断に踏み切りました。

大学時代は小学校教師を目指し、教育学部で学んでいたという遠藤さん。舞台俳優の経験を経て、現在子どもと接する毎日を送っていることは、必然なのかもしれません。

子役指導の際に心がけていること

大切にしているのは「嘘をつかない」こと

子役を指導する上で心がけていることを尋ねると、「子役が舞台上で良い成果をあげたら本人の努力の賜物。上手くいかなかったら指導者の問題である。と考えています」と教えてくれました。遠藤さんが学生時代に関わった、ある指導者から学んだことで、ずっと肝に銘じているのだそう。

また、子役と接するときに大切にしているポリシーがもうひとつあります。それは「嘘をつかないこと」。

「人間なので、間違ったことを教えてしまう場合や、やってみたことの方向性が違った…ということもあるんです。でも、そんなときは素直に謝ります。みんなには本音でぶつかって来てほしいので、こちらも嘘のないように、小手先でごまかさないようにしています」

指導者がごまかしたら、子どもに伝わってしまう。良くないと思ったことや、変えるべきことは率直に伝える。嘘のない対話が信頼感を生み、良好な関係を築き、子どもの自信や意欲につながっているようです。

子どもの個性と指導方法の関係

ひとくちに子役といっても、個性はさまざま。現在遠藤さんが指導を担当している『バケモノの子』では、3役に対して総勢12人の子役がキャスティングされていますが、その子に合った指導方法はどのように見極めているのでしょうか。

「例えば、呼び方ひとつでも、苗字なのか名前なのか、そして敬称の有無によっても伝わり方が異なってくるので、関係性をつくりながら変えています。何かを指摘するときも、その子の個性に合わせて、言葉遣いや伝える場所などに気を付けています」

多種多様な子どもたちがいる環境で、それぞれに最適な指導方法を見つけていく。一方的ではなく、双方向で関係性をつくり上げる意識がカギになりそうです。

公演当日の子役との接し方

「しっかりね!」という言葉に滲む信頼

『バケモノの子』の子役指導2名も掲載されているキャストボード

『バケモノの子』名古屋公演では、2名が担う子役指導。演技や歌の稽古、公演当日のサポートなど様々な役割があるなかで、本番で力を発揮してもらうために心がけている声掛けや、指導内容について聞いてみました。

「俳優は、開演までの限られた時間で、役に入るスイッチを入れなければなりません。ですから、子役たちには”舞台に立つ覚悟を持って劇場に来ること”を意識してもらうようにしています」

プロとしての覚悟を胸に劇場に到着した子役たちは、発声の訓練や舞台の場面チェックをして、開演の準備を進めます。そのあと、衣裳やかつらを装着する時間までは、子役指導も一緒に過ごすのだそう。

「本番直前は、子役側から確認事項や質問などがない限りは、過保護にならないようにして、自分自身でスイッチを入れてもらうようにしています。舞台に出ていく瞬間には『しっかりね!』とだけ伝えて送り出します。あとは私たちには何もできませんから、本番を見守るだけです」

プロを育てる指導者としての厳しさと、優しさ溢れるお兄さんのような包容力を併せ持つ遠藤さん。「しっかりね!」という言葉からも、子どもたちを信頼する気持ちが伝わってきます。

その短い一言の裏には、「『舞台に立つことが楽しい』と感じてもらい、その気持ちを次のモチベーションにつなげてほしい」という願いも込められています。物事に真剣に取り組むことが、楽しむことにつながり、頑張る糧になる。きっと遠藤さんの思いは、子どもたちに伝わっていることでしょう。

良かった点や課題点をフィードバック

無事に役を演じきり、幕が降りた後にも、大切なやりとりがあります。子役が成長しつづけることを願って、長年続けているというそのコミュニケーションは、公演での良かった点や課題点などを記したメモを、子役本人に渡すというもの。

「A6サイズのメモに、台詞の課題や、お芝居がもっと良くなりそうなポイント、発声のアドバイスなどを書いて渡しています。逆に、素晴らしかったことについても綴るようにしています」

子どものやる気に直結しそうな、その日の頑張りに対する丁寧なフィードバック。また、手元に残るメモであることも、子どもの自己成長において宝物のような存在になるのではないでしょうか。

子どもの成長には周りの大人の成長も必要

師弟関係となる熊徹&蓮/九太のシルエットと空の対比が清々しいプログラム表紙

作品や役をブラッシュアップするため、子役たちから本番の感想を聞いて、コメントを返すという交流も大事にしています。

「課題がなくなってしまうと技術は維持できませんし、成長も止まってしまいます。常に新しい課題を提示し続けられるように、指導者側の目も耳も育てていく必要があります。子役たちに鍛えてもらっていますね(笑)」

夢を追う子どもの成長をバックアップしていくためには、関わる大人の成長も重要だということですね。

指導者と家庭のそれぞれの役割

子どもの活躍を支えるという意味での劇団と家庭の役割については、「子役の保護者の方々に対しては、作品や役を演じることに対するサポートは劇団側で精一杯できる限りのことをするので、安心して任せてくださいと伝えています。ただ、上手くいかなくて落ち込んでいるときには、ご家庭で夕飯に大好物を用意してあげたり、話を聞いてあげたりといったフォローをしてもらえると、子どもは嬉しいのかなと思います」と考えているそう。

切磋琢磨できる環境と、安心できる家庭の存在が、目標に向かって励む子どもの活力に通じるのでしょう。

夢を実現する子どもに共通点はある?

劇団四季の舞台に立つ夢を実現した子どもたちに、共通点はあるのか質問したところ、意外にも「こういう子だから夢を叶えた、という共通点はないですね」との答え。

劇団四季の子役オーディションは、それまでの舞台経験は問わず、広く門が開かれています。努力すれば、どんな子にもチャンスがあるということです。

「夢を叶えるには、努力し続けられるかどうかが重要です。ここで手に入れた”努力できるようになる経験”が、子役たちの財産になると良いですね」と遠藤さん。それまでの経歴や才能だけではなく、精一杯力を尽くした先で、夢の舞台をつかむことができるのですね。

指導者としてやりがいを感じる瞬間

最後に、これまで数多くの子役の指導に携わってきたなかで、一番やりがいを感じる瞬間をお聞きしました。

「舞台でいきいきと輝いている姿を見ることですね。あとは、稽古中に苦労していた課題をクリアできたときの、子役たちの表情がパッと明るくなる瞬間でしょうか。何かが変化する瞬間に立ち会えるのは嬉しいことです」

また、「将来子役指導になりたい」と口にする子もいるそうで、「それには驚きました(笑)」と目を細める遠藤さんも印象的でした。

劇団四季オリジナルミュージカル『バケモノの子』名古屋公演は、2025年2月9日の千秋楽に向けて、いよいよラストスパート。「一人ひとり、それぞれの魅力があります」と誇らしく語る遠藤さんたちの指導のもと、子役それぞれが役に向き合ってきた努力と成長の姿を観に、ぜひ劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか。

<『バケモノの子』あらすじ>
バケモノたちが住む異世界・渋天街に迷いこんだ、一人ぼっちの人間の少年・蓮は、乱暴者ですが心に強い信念を持っているバケモノ・熊徹と出会います。彼の弟子となった蓮は、「九太」と名付けられ、修行を重ねます。九太と熊徹は、ぶつかり合いながらも共に成長し、まるで本当の親子のような絆を深めていく、希望の物語です。

劇団四季公式サイトはこちら

<子役/野田航世さんのインタビュー記事はこちら>
劇団四季『バケモノの子』の子役に見る成長の道のり。学校との両立についてもインタビュー

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磯野絵里

武蔵野美術大学卒業後、住宅設備機器メーカーにて広報・ブランディング、デジタルマーケティングの分野に約13年間従事し、Webや販促物などのディレクションおよびデザイン、記事やメールマガジンの執筆も担当。現在はフリーランスとして活動。舞台やミュージカル観劇が生き甲斐の、デザイナー兼ライター。

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