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ソクたま会議室
2022.01.06
テーマ: ウィズコロナ時代の教育・子育てを考えよう

今の子どもたちに必要なのはクリエイティビティ。教育が進化しても直接体験を失わせてはいけない!/歌手 アグネス・チャン

アグネス・チャン

世界を舞台に活躍するアグネス・チャンさん。教育学・心理学に精通した彼女は、コロナ禍の毎日を通して、これからの教育をどのように考えているのでしょうか。自身の子育て経験も踏まえた、アグネスさんの子育てメソッド。明るく前向きなメッセージには、子育て世代の心をスッと軽くさせる力があります。

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日本、香港、サンフランシスコで経験したそれぞれのコロナ禍

新型コロナウイルスの感染に世界が翻弄されたこの2年、子どもを抱えた家庭にとっても大変な時期が続いたと思います。

「いつから学校に行くのか、行かないのか」
「学校がどうなるのか分からないから、計画が立てられない」

いかに学校のスケジュールに合わせて1年をプランニングしていたのかということを痛感した、苦しい時期だったのではないでしょうか。

  • マスクを付ける
  • 手を洗う
  • 近付かない

というこれまでと全く違う習慣で過ごさなければならなくなり、子どもたちも我慢することが多かったでしょう。

私が滞在しているサンフランシスコはロックダウンがあったので、日本以上に日常生活が大きく変わりました。ところが、ワクチン接種が進んだ今、まるで何もなかったかのような日常に戻っているのです。

アメリカは“個人の自由”の精神が強く、公衆衛生に対しても「国に指示されてやるものではない」「私が良いと判断するならばそれに従って良い」という考えがあります。とりわけ“保守的”といわれる州では、その傾向が強いように感じます。

「自分たちの社会は自分たちが守らなければ!」という精神が強い日本の国民性に比べると、パンデミックに対して“心を一つにして立ち向かう”ことが難しいのかもしれません。

香港も公衆衛生のルールを守って暮らしていますが、それは何より「コロナで死にたくない」という気持ちが強いからのように感じました。

私自身は仕事と家庭で日本・サンフランシスコ・香港と3ヵ国を移動しているため、この2年の間に9回の隔離を経験しました。そのうちの4回がホテルでの隔離、5回が自宅での隔離です。ホテルでの隔離は窓もドアも開けることができず、大量の原稿仕事を持ち込んでみたものの、2週間という期間はとてもつらいものでした。1週間が限界。それに比べると、自宅での隔離は慣れることができるものでした。

けれど、このようなパンデミックにおいて大切なのは、自分が感染していなくても“人に感染させない”という気持ち。大変な経験ではあったものの、この気持ちがあったから乗り越えられたのだと思います。

経験の少なさが子どもの“無関心”につながることも…

この2年の間に、小学校から大学までリモートでの授業が織り込まれるようになりました。これを契機に、学校教育は大きく変わっていくでしょう。

大学生にとっては、リモートでの授業は時間や場所、人数の制約を受けないというメリットがあります。しかし、それより下の年齢の子どもたち、特に小学生がずっとリモートになってしまったら残念なこと。子どもたちは、学校に行くのが理想です。彼らは学校に行って友達と触れ合い、自分が大人になってどのように社会を泳いで行くのかを考えていかなければならないと思うのです。

また、画面を通しての授業は従来の対面授業よりも、子どもを引きつけるための“先生の表現力”が問われます。テレビやネットなどのいろいろな刺激に慣れている子どもを引きつけるためには、例えばYouTuberのように単に知識があるだけはなく表現力豊かな先生が必要とされるでしょう。

とはいえ、実際に経験したことと画面で見たことでは、理解度や記憶の残り方が違います。人間は「アハ体験」といって新しいことを学ぶと脳の神経回路であるシナプスが増えて脳が活性化されるといわれますが、リモートの授業でそれがどこまで脳を刺激することができるかという懸念があります。

この2年でわが子がしっかり学びが身に付いているか、家庭での学習サポートが重要だと思います。親が教材を把握して、つまずきがないか気を配ってみてあげる。家事や育児、仕事もある中で大変なことではあるのですが、子どもは分からないことが増えると興味を失ってしまいます。好きでない科目があっても構わないけれど、好きな科目が分からなくなってしまうのは心配です。特に8歳までの子どもがいる家庭は、学校での「アハ体験」が少なくなってしまっているのでより注意してみてあげてくださいね。

今の時代、子育てや教育に関する情報が溢れすぎている面があります。何が正しくて、何が間違っているのか悩んだり迷ったりすることはありますよね。でも、お母さんやお父さん、親が良いと思ったことをやればいいと思うんです。

例えば、暗記型の勉強法に否定的な意見もありますが、私は暗記が良くないものだとは思いません。暗記することで記憶力を鍛え、脳に高速回路を作ることができます。インド人は九九を13の段まで暗記しているから計算や数学が得意といわれていますよね。計算は、速い方が気持ち良いもの。あとは、シェイクスピアや百人一首などの古典文学も積極的に暗記して良いと思うんです。文化を支える底力にもなりますから。

もちろん、学校の教育方針はあると思いますが、それはそれ。親が「これだ!」と思うものを信じていいんですよ。

親は真面目じゃなくていい! “面白い毎日”が子どもの希望になる

コロナ禍による休校措置やさまざまな自粛によって、子どもたちの“スケジュールのある毎日”が崩れてしまいましたよね。それが原因となりやる気を維持できず、ゲームに夢中になってしまったり、生活が不規則になってしまったりしたのは不思議なことではありません。

でも、子どもたちは「ゲームがやりたい」のではなくて「面白いことをしたい」のだと私は思うのです。ゲーム画面の向こうの世界よりも現実の世界の方が面白ければ、こちらを向いてくれるはず。ゲームは中毒性があるので、子どもが画面を向いている時間を減らすことは絶対に必要です。子どもが振り向くような、面白いことをやってみませんか?

日本のお母さんは真面目なので、子どもに対して教育的でなければならないという気持ちが強いように感じます。でも、真面目でいるばかりでは子どもにとって「つまらないお母さん」になってしまう。夜中までゲームをして朝起きなかったら頭から水をかけて起こしちゃうとか、髪の毛を緑色に染めちゃうとか…。あり得なさ過ぎて子どもが逆にクール(かっこいい)だと思ってしまうようなことをやってみるのは、ダメでしょうか? 

私の提案は極端すぎると思うかもしれませんが、それでも子どもにとって“毎日が面白い”ことは大切なことです。子どもには真面目なことばかりではなく、“希望”を与えてあげないといけません。キャンプとか買い物とか映画とか、ゲーム以外にもその子が好きな“面白いこと”は絶対にあるでしょう。想像力を働かせて、クリエイティブなお母さん・お父さんになってみてください。

わが家ではロックダウン中、パイ作りコンテストをやりました。家族全員がそれぞれパイを作って順位を競うのですが、私は3位。それがもう、悔しくて! 次回は1位を取るぞと今から思っています。あとは餃子の大食い大会もやりました。家族で作った餃子を何個食べたか競うのですが、すごく盛り上がりました。ばかばかしいように見えるかもしれませんが、家族みんなが「面白い!」と思えることは自分たちだけの大切な思い出として残ります。

ただし、こういったアクティビティーも「子どものためにやる」と思うとストレスになります。お母さんやお父さんが楽しめるものにしてくださいね。

一時的なこととはいえ、コロナウイルスによる日常生活への影響はもう2年近くになっています。その間、一人になる時間もなかったお母さんは少なくないでしょう。

クリエイティブ、アクティビティーというと構えてしまったり、「そんな余裕はない!」と思うかもしれません。でも、難しく真面目に考えることはありません。まずは“自分がやりたい楽しいこと”を最優先に、それに子どもや家族を巻き込むプロジェクトにすると楽しいですよ。

子どもが大人になって寂しい時、つらいときに、お母さんとの楽しかった毎日の思い出によって気持ちが救われることはあると思います。私自身もいつでも、そばにいなくても、母親の愛情やつながりを子どもたちに感じてほしいと願っていますから。

子育ては未来を生きる人を育てる素晴らしい仕事!

私の3人の子どもたちがまだ小さかった時、「子育ての真っ最中が華」と子育ての先輩たちによく言われたものでした。その頃は子育てに奮闘していて、毎日が本当に大変で、忙しすぎて吐いちゃうこともあるくらい。正直、先輩たちが言うようには思えなかった部分はあったかもしれません。

でも、子どもたち全員が大学に進学した今、私も「子育ての真っ最中が華」だと実感しています。小さい子どもを育てているお母さんがうらやましいくらいに…。毎日大変だと思いますが、子育てをしている皆さんの顔は輝いていますよ。“未来を生きる人”を育てているというのは、本当に素晴らしいことなんです。

子どもを教育していくことは、とても長い道のり。根気の要る大仕事です。乳児期、幼児期、少年期とそれぞれの時期に親が子にしてあげるべきことはさまざまですが、14歳が一つの区切りだと考えています。14歳まではやり残さない。子どもに関心を持ってしっかり育てていけば、その後は案外うまくいくものです。

世の中にはいろいろな教育に関する考え方がありますが、どれがダメとか良いとかではなく、お母さんの引き出しに入れておくといいと思うのです。そうすることで子どもにいろんなきっかけを作ってあげることができます。ただし、つまみ食いのように表面的な部分だけを真似したり、やりすぎたりするのは良くありません。

私自身は子どもが生まれるまでは今みたいに自分をさらけ出せる人間ではなくて、子どもが生まれてから“前に前に”出ていくようになりました。わが子の友達からも人気のあるお母さんになろうと思って、子どもの喜びそうなことを一生懸命考えました。それが「クリエイティブな子育て」につながったと思っています。

子育てで難しいのは「子離れ」です。子育てに一生懸命になりすぎると、永遠に子どもを“持てる”ような錯覚をしてしまう。そして、子どもも自分で物事を決められなかったり表現できなかったりといった傾向になってしまうこともあります。

また、これからの時代は変化が激しく、そのスピード感に付いていける力が大切になります。自分にとって一番居心地が良い状態に安寧するのではなく、毎日違う状況になっても臨機応変に対応できる力が必要なのです。

だからこそ、子どもを一人の人間としてリスペクトしながら、自立できるように少しずつ離れていかないといけません。子離れは寂しい気持ちもありますが、思う存分にやり切ってしまえば悔いがない! これは、私の経験からも強く思うことです。

子育てを不安に思うのは自然なこと。特に、日常が大きく変わってしまったこの2年、悩んだり孤独を感じたりするお母さんは多かったことでしょう。でも、大丈夫! 子どもがそばにいる時期を大事に思い、過ごせば、きっとうまくいくはず。「しんどいな」と思った時、子育ては今しかできない大切な時間だということを思い出してみてくださいね。

<取材・文 小田マリエ>

アグネス・チャンさんが日本デビュー50周年記念コンサートを開催!

1972年、「ひなげしの花」で日本デビュー。一躍アイドルとして「アグネス・ブーム」を巻き起こし、多くのファンの心をつかみました。デビューから半世紀を迎える2022年、感謝と平和への思いを込めて、自身のヒット曲や人生の節目に出合った歌とともに、大切な時代をつづります。ぜひ、アグネスさんの心のこもった歌声を聴きにお出かけください!

アグネス・チャン 日本デビュー50周年記念コンサート
「平和の歌声よ、届け! 歌でつづる私の半世紀」

【主な予定曲目】ひなげしの花/草原の輝き/そこには幸せがもう生まれているから/ピースフルワールド/朗らかに/星に願いを/糸/涙そうそう、他

【公演日時】2022年1月26日(水)18:30~
【会場】中野サンプラザホール
【入場料金】S席:6200円(税込) A席:5700円(税込)

チケットのお求めは
チケットぴあ【Pコード:206-239】
ローソンチケット【Lコード:73750】
サンプラザチケットコーナー ☎ 03-3388-7906

≪公演のお問合せ》MIN-ONインフォメーションセンター ☎ 03-3226-9999
《主催》MIN-ON
※未就学児童の入場不可。

アグネス・チャン

歌手・エッセイスト・教育学博士[ Ph.D.] 香港生まれ。1972年に日本で歌手デビュー後、上智大学国際学部を経てカナダのトロント大学(社会児童心理学)を卒業。1994年にアメリカのスタンフォード大学で教育学博士号(Ph.D.)取得。1998年に日本ユニセフ協会大使に就任。現在では、芸能活動に加え、エッセイスト、大学教授、ユニセフ・アジア親善大使、日本対がん協会「ほほえみ大使」など、文化人として世界を舞台に幅広く活躍中。アグネス・チャン公式サイト

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