“義務感”を押し付けず本音で向き合う先生。それが子どもの生きる力を育てる
歌崎雅弘
「塾を卒業する学習塾」がコンセプトの「いま-みらい塾」を運営する、歌崎雅弘さん。学校に行けない子どもの“生きづらさ”を解消するのが、自身の使命だと話します。先生に問われるのは、生きる力につなげるサポート。歌崎さんが考える「いい先生」像には、自身の経験が根幹にあるようです。
目次
先生嫌いだった僕が、先生になった理由
「最高の学習法は、生きる力を育むことにもつながる」をモットーに、子どもたちの自学力にアプローチした学習塾「いま-みらい塾」の塾長を務める歌崎雅弘さん。勉強をゲーム感覚で楽しめる早押し学習アプリ「はやべん」の開発や小学生から社会人、保護者に向けた「自学のすゝめ講座」など、斬新な学習スタイルとそのノウハウを提供しています。今秋には、新たな自学力養成教室を開校予定です。
正直に話すと、僕は先生という存在があまり好きではありませんでした。
それは、大人に関する不信感があったから。面白くなさそうに生きているイメージがあったんです。楽しそうに生きている大人がいないし、「どうせ、僕の気持ちは分かってくれへんやろな」と思っていました。だから、先生に心を開くことはなかったし、本音や思っていることを言ったこともありません。
ではなぜ今、先生という立場にいるのか。
僕は高校3年時、偏差値40から半年で80まで上げることに成功しました。当時の担任からは「何年かかっても無理だ!」と断言されましたが、独自の学習法を開発したことで大学に合格。先生のアドバイスを受けたわけでも、塾に通ったわけでもありません。自ら効率の良い学習法を見つけたんです。
僕が塾を開講した理由の一つが、この経験にあります。通塾や塾の宿題にたくさんの時間を費やしている、勉強の仕方が分からない…そういった非効率な勉強方法で苦しんでいる子どもたちを救いたかった。自分が納得していないのに、誰かに押し付けられたことを義務感だけで勉強するのは無駄です。効率良く勉強することで、もっと人間的で楽しい生活が送れるんです。
僕の塾は基本的に、勉強を教えているわけではありません。子どもの頃に感じていた“無駄”を省き、「自分で勉強すればいい」と伝えているだけ。1回だけ授業を行い、伝えるべきことを伝えることで完結するスタイルです。自分でやればいい・やりたくなければやらなくてもいい・やらなくても困らない。ただし、選んだことに対しての結果は自分で見極めなければならない。こんなふうに、全て自分で選ぶべきだと教えています。
先生と呼ばれる立場にいますが、一般的な“先生”とはちょっと違うんです。
教えるのは勉強の心構えだけ。それを生きる力につなげてほしい!
塾で行う1回の授業で子どもたちに教える勉強法は、必要なことだけを勉強するというもの。
僕の勉強方法で一番のベースとなったのは、“自分ができなかったところをできるに変える”ということです。自分がマスターできていない部分を洗い出す作業を行い、それをノートにまとめる。次は絶対に間違えないよう、隙間時間を使って徹底した復習を行いました。
マスターできていないことを、一ヵ所にまとめるという作業が非常に大事だと思っています。ノートだったり教科書だったり、参考書だったりといろいろな場所に分散させてしまうと勉強しようと思ってから開始するまでに時間がかかります。結果、無駄な時間になってしまうんです。だから、一冊のノートにまとめて常に持ち歩いていました。
何をやるべきか考えたり、志望校に合格できるか不安になって成績表を見たりという時間は、意味がありません。これで勉強した気になってしまうこともあるし、問題解決に直結しないことをかなりの時間を使って作業しまうことになるので、この部分の排除は徹底しました。
僕の場合は英語の点数が上がらない理由を追究をした時、ほとんどの問題が英単語が分からないことでした。だから、長文読解の問題はやらずに英単語と英熟語をひたすら覚えるだけに決めました。
日本人は完璧主義な傾向にあるので、与えられたものは全部やらないといけないと考えがちです。しかし、それで無理が生じたり破綻したりすることもあります。
目標・目的を決めた時、そこに直結することをやれるのか、それを自分で見つけることができるのか。“与えられたから”、“みんながやっているから”では形式だけの勉強になってしまいます。この部分を考えることが、生きる力につながるのではないでしょうか。
また、“質問すること”の大切さも子どもたちに伝えています。これが、全ての源になるんです。ただし、質問する前に自分でできることが必ずあるはず。子どもたちを見ていると質問すること自体が苦手な子もいますが、完璧な答えを求める子も多いんです。そうではなく、一歩でも二歩でも踏み出す、質問する前に自分でどこまでできるか挑戦すると、何が分からないのかが明確になります。
だから僕は、自分で考えること・自分で見つけることを“先生”として子どもたちに伝えたいと強く思っています。
“学校に行かない”という選択肢があってもいい!
僕が運営する「いま-みらい塾」のコンセプトは、「塾を卒業する学習塾」。塾というのは、乱暴な言い方をしてしまうと生きる力を育むというところをすっ飛ばして学力だけ身に着けさせるサービスですよね。何も考えなくても、従っていれば学力を身に着けることができます。
でも、本来は生きる力が学力につながるはずなんです。自ら切り開く力、課題の発見や課題を解決する力、最後までやりきる力。これが、子どもたちにとって本当に必要な“力”だと思うんです。
今、学校に行けない不登校の子どもは多く存在します。そして「学校に行かなくてはならない」という圧力が強く、「行けない自分はダメだ」と感じてしまう子も少なくありません。でも「行きたくない」「行く理由が分からない」なら行かなくてもいい、そういう選択肢を作ってあげるべきだと思っています。
学校に行かなくても勉強ができる・学校に行かなくても友達ができる・学校に行かなくても部活ができる。こんなふうに、子どもたち自らが選択できる環境を作っていくことが僕の目標です。学校に行けないとか不登校ではなく、学校を卒業する日を自分で決められるというのもアリだと思っています。
僕のロールモデルとなっているのが、織田信長。否定すべきものは否定し、戦う。それで嫌われたりたたかれたり、敵を作ることもあるでしょう。でも、調和を求めるだけでは変わらない部分が絶対にありますから。
「いい先生」は、正直で子どもと本気で向き合う人
子どもに「どうして学校の授業を受けなきゃならないの?」「何で勉強するの?」と聞かれたことはありませんか? 実は、この疑問を持つというのはとても素晴らしいこと。けれど、この子どもの純粋な質問にどのくらいの大人が真剣に考え、答えてあげているでしょうか?
「みんながやっていることだから」「義務教育だから」…そんなふうに答えてしまったこと、あるいは自分が子どもの頃、大人にそう諭されたことのある読者もいるのではないでしょうか。
子どもは、この理論に違和感を抱くことが少なくありません。それなのに「そんなこと言っていないで勉強しなさい」と言われ、気持ちにふたをして義務として授業を受ける・勉強する。それは、問題解決にはなるかもしれませんが“自分で考える・自分で決める”という成長の芽を摘んでしまっていることにもなり兼ねません。
僕自身、子どもの頃いつも「なぜ?」という疑問を抱いていました。例えば授業で花の絵を描く課題が出されても“なぜ描かなければならないのか”が分からず、ずっと立っていたことがあります。そんな感じだったので、通知表はもうボロボロ(笑)。
でも、それを親に叱られたりとがめられたりしたことは一度もありません。運動会のリレーで、バトンを渡されたのに走らなかったことがあるんです。「なんで走らなければならないの?」と思ったのと、「走らなかったらどうなるんだろう」という好奇心のようなものもあったかもしれません。先生にはものすごく怒られましたが、母親から言われたのが「お母さんと一緒や! 走る意味分からへんよな」って笑われました。
僕の両親の素晴らしい点は、自分が納得していることしか言わないこと。押し付けのようなものがなかったので、反抗する気持ちが芽生えたこともありません。
父親に「ゲームやめろ」と怒られたことがあるんですが、それは父親がゲームしたいから(笑)。でも、それを正直に子どもに伝えてくれるから「やりたいんやな、確かに僕ずっとゲームしてるしな」と納得できたんですよね。
今の教育の問題点は、「こうしなければならない」と決められていることだと思います。自由選択の場や選択肢がないんです。そして、それを疑問に思うことがNGという状況が多すぎるとも感じます。
もし、僕が子どもに「なぜ学校の宿題をやらなければならないんですか?」と聞かれたら、「よう気づいたな、めっちゃ非効率やもんな。僕もやらんでいいと思ってる!」と答えます。子どもの納得する説明ができないのに、義務として押し付けるのは間違っていると思うから。
一番、大人がするべきでないのは質問した子どもを怒ってしまうことです。子どもは「なぜなのか」と聞いているだけなのに、それを怒ってしまったら「会話にならない。ごまかしたな」と感じます。
子どもが納得する答えが出せないのなら、正直に認めることが大事。「なんでやろな、何となく勉強やった方がいい気がする。でも正直、勉強が必要かと言われると分からんわ」と言った方が、むしろ誠実なんです。
最初に「先生が好きではありませんでした」と話しましたが、「いい先生」はいっぱいいます! 僕の知り合いの先生たちも、本当に素晴らしい人たちです。
「いい先生」の共通のキーワードになると思うのが、やはり“本音”です。子どもたちの人生に関わっているという意識を持ち、自分に非があるときはそれを認めて謝ることのできる人が「いい先生」なのではないでしょうか。
子どもは、大人のことをしっかり見抜いています。不誠実な対応を見抜くから、反抗心も生まれるんです。
先生に一番求められているのは、子どもたちと本音で向き合うことだと思っています。
<構成・執筆 ソクラテスのたまご編集部>
1979年兵庫県生まれ。「いま-みらい塾」塾長、特定非営利活動法人「こどもごころ」理事長。自ら見出した「さとり学習法」で偏差値40から半年で80まで上げることに成功、京都大学農学部生産環境科学科に合格する。会社員を経て2016年に独自の学習法を体系化した「いま-みらい塾」を開校。2019年には、早押しクイズ学習アプリ「はやべん」で、日本e-Learning大賞「学習アプリ特別部門賞」を受賞。「いま-みらい塾」▶https://imamirai-school.com/