学校はいざという時に、”SOSを出せる自分を育む”場所/心理士・久保田健司
久保田 健司
元カメラマンという異色の経歴を持ち、自身も不登校経験のある心理士の久保田健司さん。現在は児童の居場所支援など、児童分野での心理カウンセリングを多数行っていますが、最初に心理士として活動を始めたのはホームレス支援でした。そんな久保田さんにとって、学校とはどういった場所なのでしょうか。
私自身、中学時代にいじめを受け、3年間ほとんど学校に通えませんでした。
学校に行こうと思っても、めまいや腹痛が生じ、全身で拒否反応が出ていた中学時代。しかし家族や学校の先生からは「学校に行きなさい」の一点張りで、誰からも理解を得られず、苦しい3年間でした。
そんな私の心理士としての活動は、ホームレス支援が最初でした。
不登校時代に周りの無理解などで、さんざん苦しい思いをしてきた私は、学校や医療など、メインストリームでの活動よりも、ホームレス支援のような、社会のアウトローにいる人たちへの支援に関心が高かったのです。
ホームレス支援を行なっていると、九九といった基礎的な計算、
そのような人たちは、
本人も誰かに助けを求めることができず、ずっと自分のせいだとして過ごしてきたと話す人がほとんど。
本来であればみんなが身につけているはずの基礎的な学力すら、
そのようなホームレスの人たちと接する度に、基礎的な学力等々の前に”SOSを他者に言える”ことが、その後の人生を大きく左右する鍵であると認識するようになりました。
特に義務教育における学校は、全ての子に対し教育を受ける機会が提供されている場所です。だからこそ学校では、全ての子どもが”いざという時にSOSを出せる自分を育む”能力を身につけられる役割を担っていると思います。
何か困った時に誰かに助けを求められるのは、他者と自分を信頼できるからこそ出来ることです。
”他者を信頼する”とは、
一方の”自分を信頼する”力は、自分の得意不得意を理解し、自分自身を肯定することで培われるものです。
完璧な人はこの世にいません。誰でも得意なこと、苦手なことがそれぞれあります。
全部一人で抱える必要はなく、
一生安泰という道が存在しなくなった変化の激しい現代において、いつ自分が危機的な状況になるかわかりません。それでも誰かにSOSを伝えられれば、
今後ますます”SOSを出せる自分を育む”、学校の役割が重要になってくると思います。
もちろん学校に行くのが辛いなら、無理して行く必要はありません。学校はあくまで手段であり、自分に合う場所は他にもいっぱいあるはずです。
疲れることがあったら、無理をせずに学校と距離を取るのも一つの方法です。
臨床心理士。公認心理師。米国臨床心理学修士(M.A. in Clinical Psychology.)。 現在は、ハウジングファースト東京プロジェクトで、ホームレス状態の人への支援活動に関わる。地域医療、教育、貧困問題、トラウマ、家族・コミュニティへの臨床活動に注力し、オープンダイアローグの実践に携わる。kubotakcr@gmail.com