学校は自分らしさを知り、人と関わり合う力を身に着ける大切な居場所/カウンセラー・ 桒原航大
桒原航大
自身も不登校の経験があるという桒原航大さんは、不登校支援センター・大阪支部で活動するカウンセラー。多くの相談者に寄り添ってきた桒原さんの考える学校の意味とは? 温かなメッセージは、今まさに学校生活や友人関係で悩む子どもや親にとって勇気をもらえる内容です。
私たち不登校支援センターでは全国に7つの支部を開設し、主に不登校に悩む子どもや家族にカウンセリングでの支援をしています。
社会の不登校に対する認識、支援の在り方などが多様になっていること、そして相談に来た子どもやその家族が充実した人生を歩んでいる姿を通して、学校に行かないことが必ずしもいけないこと、取り返しのつかないことではないと感じております。
しかしながら、学校に行くことで得られることもしっかりあると感じています。今回は“学校へ行く意味”について、カウンセラーの立場からお話ししましょう。
「どうして学校へ行くの?」。疑問を抱く子どもの背景を考えよう
「どうして学校へ行く必要があるの?」と子どもから聞かれて答えに迷ったという親からの相談、カウンセリングの中で子どもからこうした質問が出てくることは度々あります。
「質問に対してどのように答えてあげたらいいのだろう」とまず考えたくなりますが、私が大切だと感じているのはその疑問を抱くまでの子どもの背景を考えるということです。
なぜ、「どうして学校へ行く必要があるの?」という疑問を持ったのでしょうか。
純粋な好奇心から来る疑問であれば、そのまま親の考えを伝えるのも一つだと思います。
しかし、カウンセリングの中でこうした質問が出た時にその子の背景を考えていくと「今、学校に行くのがつらい」という気持ちや「今の私のつらい気持ちを分かってほしい」という気持ちが隠れていることが多くあるんです。そういった時には「学校に行く意味」を正しく伝えても、子どもの気持ちが晴れることはないでしょう。カウンセリングの際には、その疑問を抱くまでの背景やその子の気持ちをまず聞いていくことを大切にしています。
「学校に行きたくない」とわが子が悩んでいたら…。
この記事を読んでいる人の中には、今まさに不登校で悩んでいるという人もいるのではないでしょうか。
実際に相談に来た親御さんから話を聞くと「私が甘やかしたせいなんです」「私が厳しく言いすぎたせいで…」など、自身を責める言葉がたびたび出てきます。不登校になったことを、まるで子育ての失敗のように話すこともあり、それだけ親御さんもつらい状況にあることが伝わってきます。
しかし、不登校というのは決して親の責任ではありませんし、子どもの弱さを表すものでもありません。
不登校というのは、子どもの心に強いストレスがかかり、その強いストレスから心を守るために子どもなりに取っている対処の方法です。
私たち大人も、ストレスを感じた時には自分なりのストレス解消の方法がありますよね。おいしいご飯を食べたり、誰かに相談したり、勉強するなどの努力をしたり。
不登校もその対処方法の一つで、ストレスそのものから遠ざかることで“自分の心を守ろう”としているのだというとらえ方も大切になります。むしろ、そうした自分の心を守る方法が取れずにひたすら我慢し続けてしまう方が心配なこともあるのです。
また、「不登校=ダメなこと」というとらえ方は子どもの自信をさらに失わせることにもつながってしまいます。
私たちも、今の状況には原因があり、その原因を解決しようというスタンスではなく「あくまでその子らしい性格を強みとして生かせるように関わりながらストレスに対処する方法をもっと増やしていこう」というスタンスで関わっています。
“ダメなところを直す”よりも“イイところをもっと増やそう”の方が、気持ちもなんだかラクですよね。子どもも親も、こうした視点を持つことを大切にしてもらえたらと思っています。
そのためにも、まずは今のお子さんの状況(感じているストレスや、その子らしい強み)を正しく理解することが大切です。もし向かうべき方向に迷っているのなら、信頼できる誰かに聞いてもらったり専門家に相談したり。家族だけで悩みを抱え込まず、第三者の意見やアドバイスを頼ってみましょう。
学校は“自分らしさ”生かすことのできる大切な場所
学校に行くことの意味、それは“自分らしさを知ること”にあると思っています。
心理学では、人の行動には必ず相手が存在しているといわれています。「誰かのために」「誰かに言われて」「誰かのせいで」…。私たちのさまざまな行動は相手に向けたものだったり、相手の行動を受けてのものだったりします。
そして、時に“相手”は、“自分”にもなります。「自分をほめてあげるために」「自分が後悔しないために」「自分の責任を感じて」…といったように。
相手から影響を受けて行動に移してみたり、自分の行動によって相手から反応が返ってきたり、このたくさんの経験を通して「私ってこういうことに『ワクワクするんだな』『悲しくなるんだな』『許せないんだな』」など、自分が知らなかった自分らしさを知っていくことになります。
以前相談に来ていた女の子で、周りのことをとても気にする性格の子がいました。
その子は前にいた学校で、学年中から無視をされるといういじめを受け転校をした経緯がありました。
転校先の学校では、頑張って登校していたものの「またいじめられるのではないか…」という不安から周りからの評価を気にしながら、本心は言わず、目立たないように過ごす日々が続いていました。
しかし、その後の学校生活を過ごす中で彼女にも変化が少しずつ出てきます。
相手を笑わせようとちょっと冗談を言ってみたり(「めっちゃウケた」とうれしそうに話してくれました)、普段の私服もおしゃれになったりと、意識が外に向いていく様子がとても伝わってきたのです。
さて、彼女にはどんな変化が起きていたのでしょうか。
そのことについて伝える前に、まず知ってもらいたいのは人の性格については“イイ性格、ダメな性格”というものがないということ。あるのはその子らしい性格だけで、それを内向きに生かすのか、外向きに生かすのかという性格の生かし方になります。
したがって、この女の子ももともとの“周りのことをとても気にする性格”は変わってはいませんが“嫌われないために”、“自分を守るために”周りのことを気にする性格を内向きに生かすだけではなく“喜んでもらうために”、“より自分を知ってもらうために”冗談を言ってみたり、おしゃれをしてみたり自分らしい性格を外向きに生かしていけるようになったのだと思います。
こうした変化は、自分の取った行動に対して反応が返ってくる相手がいるからできることであり、その積み重ねが自分も知らなかった自分らしさを知ること、自信を持つことにもつながっているのだと思います。
今後、広がっていくであろうオンライン授業等では感じにくい、現場にいるからこそ感じられる独特の“間”や、スキンシップなどのコミュニケーションを取ることができるのも学校の持つ意味の一つだと思います。
もちろん、学校以外の場でも人とのコミュニケーションを図ることはできます。学校がそうした経験を積む唯一の場ではありませんが、自分とは異なる価値観の人たちに囲まれ、その中で自分らしさを知るためには、学校も大切な場所の一つであると考えています。
そうした自分らしさを知ることは、何か将来の進路(人生)を選択するときのヒントになるかもしれません。自分の心の動きに気付くことができ、ストレスとも上手に付き合っていく力にもなります。また、相手の違いにも目を向けることができ、いろいろな人と人とのつながりを築いていく力にもなるでしょう。
学校は、こういった“力”を身に着けていくための大切な居場所の一つであると考えています。
一般社団法人不登校支援センター・大阪支部カウンセラー。小学校教諭1種免許状・不登校専門カウンセラー・公認心理師資格所持。教育大学にて、発達心理学・教育心理学を学び、児童生徒の心およびその道徳性の発達における実践的研究に取り組んできた。その現場での実践経験を活かし、現在は不登校専門カウンセラーとして不登校問題の解決にあたっている。 https://www.futoukou119.or.jp/