学校は家族以外に自分を愛してくれる人と出会い、世界を広げる場/家庭教育師・藤田郁子
藤田郁子
学校では学ぶことのできない家庭での教育について講演などを行う家庭教育師の藤田郁子さん。自身も3人の息子を育てあげ、現在もさまざまな保護者の悩みに応えている彼女が考える、家庭では教えきれない学校での教育、学校の役割とはどんなことなのでしょうか。
「幼児生活団」という教育団体を知っていますか? 自由学園の創立者である羽仁もと子さんが始められた団体で、幼児期に幼稚園や保育園に通園するのではなく、週1回の集合日以外は、家庭で過ごして生活の中でしつけやマナーなど必要なことを学んでいくという方針です。
日本でもホームエデュケーションという言葉が浸透しつつありますが、「幼児生活団」は幼児期のホームエデュケーションです。私は同団体の指導者をしていた経験があり、今は家庭教育師として活動しているほど家庭で学べることの必要性は十分理解しているつもりです。
しかし、家庭にいるだけでは学ばせてあげられないこともあるのではないかと考えています。社会の単位は、個人→家族→集団(学校)→社会で大きくなっていきますが、社会教育はやはり家庭だけでは補えません。
なぜなら、家庭だけで学ぼうとすると親の価値観が大きく影響しすぎて考え方が偏ってしまう可能性があります。もっと大きな枠組みに照らし合わせて物事考えていけるようにならないとさまざまな価値観が交差する社会の中で生きていくことが困難になります。
その点、学校にはさまざまな価値観をもった大人や子どもがいます。家庭のように自分の居心地のよさに合わせてくれるわけでもありません。怖いことにドキドキし、理不尽に感じることに憤ることもあるでしょう。子どもたちは学校という(家庭に比べて)広く、険しい世界に用意されたさまざまなハードルを乗り越えていかなければなりません。
しかし、それらのハードルは子どもがひとりで乗り越えなければならないわけではありません。学校には、人との出会いがあります。一緒に日常やイベントを共有する同年代の友人たちだけでなく教師や友達のお父さん、お母さんなど大人との出会いもあります。そして、すべての大人がそうだとは言い切れませんが、学校に関係するほとんどの大人は子どもを守り育てていきたいと思っています。
親でも身内でもない他人の中にも愛情をもって接してくれる人、自分と向き合ってくれる人がいることを経験で知ることは子どもが社会を生きていくうえで希望になります。
もちろん学校がすべてではありません。国によってさまざまな教育制度があるなかで日本の教育、学校が優れているとも思っていないので不登校という選択も応援します。
しかし、学校には家庭では体験させてあげることのできない他人と経験を共有して仲を深めたり、他人と向き合ったり、他人から愛情を受けたりという経験が用意されています。そんな学校のいいところを生かして社会に出る前の人格形成に役立てていければいいのではないかなと思います。
自己肯定感の育て方やしつけなど 子育てのモヤモヤにヒントをくれる
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1961年、神戸市生まれ。日本家庭教育学会認定の家庭教育師。幼児生活団の指導者・保育士・健康体操インストラクターなどの経験があり、1991年に公益社団法人スコーレ家庭教育振興協会に入会。日本家庭教育学会第24回大会(2009年)、同32回大会(2017年)では、研究論文を発表したほか、ゲームなど、身体から心の交流をはかる「ふれあいトレーニング」や「キッズ保育者研修」のトレーナーとして活躍中。スコーレ協会の首都圏北地区のリーダーも務めている。