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2023.12.11

ワーキングメモリーが低いってどういうこと?特徴や日常の困りごとへの対策、発達障害との関係を専門家が解説

同時に2つ以上のことをするのが苦手だったり、頼まれたことをし忘れてしまったりする…そんな悩みの原因はワーキングメモリーにあるかもしれません。ワーキングメモリーとはどんなものなのか、低い人の特徴や発達障害との関係、困り事への対処法を子どもの発達相談などを行っている鈴木こずえさんが解説します。

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記事を執筆したのは…

鈴木こずえさん臨床発達心理士・公認心理師

小学校・中学校でスクールカウンセラーとして15年以上勤務経験があるほか、現在は、教育相談センターのカウンセラーとして、小中高生と保護者のカウンセリングを行っている。不登校、発達障害、緘黙、行動面での問題など、成長過程での身体・精神両面におけるさまざまな相談に応えている。

そもそも記憶力とは

ワーキングメモリー(working memory)というと、記憶力と思う人もいるかもしれませんね。ですが、ワーキングメモリーと記憶力はイコールではありません。そもそも、記憶力とはどんなものなのでしょうか? 実は、ひとことで記憶といっても、記憶には保存時間の長さに基づき3つに分類されます。

感覚記憶

感覚器官(外界)から入ってきた刺激情報が一時的に保存される場所です。瞬間的に保持されるもので、最も保存期間が短い記憶です。

短期記憶

短期記憶(short‐term memory)とは、比較的短い期間、頭の中に保持される記憶のことです。感覚記憶の中で、注意を向けられたものが短期記憶に移行されると言われています。感覚記憶よりも長い時間保存されますが、時間にしたら十数秒程度と言われています。記憶容量にも限界があります。

 長期記憶

長期記憶(long‐term memory)とは、比較的長い時間保持される記憶のことです。短期記憶の中の一部や、リハーサルされた(繰り返された)ものが長期記憶に移行されると言われています。短期記憶とは異なり、記憶容量の大きさに制限はありません。

ワーキングメモリーが低いことをイメージした写真

ワーキングメモリーを指す「作業記憶」

ワーキングメモリーは、以前は上記にもある”短期記憶”と訳されることが多かったですが、今はより正確に”作業記憶”と訳されています。

作業記憶とは、インプットした新しい情報を一時的に頭の中の一部分に保存しながら、過去に保存した記憶の中から、必要な情報を検索・想起したり、必要のない情報を削除したりして情報を整理していくことです。

頭の中で、パソコンの操作のように、作っているデータをセーブしながら、過去に保存したデータを探してきてダウンロードしたり、削除キーで消去したりするイメージに近いですね。

つまり、ワーキングメモリーとは、記憶の保持・検索・操作(削除を含む)のことで、その構造は「脳のメモ帳」ともいわれています。

ワーキングメモリーの大きさは人によってさまざま

作業記憶で一時的に保持できる量(記憶容量・キャパ)は年齢や個人によって違います。さらに、何を覚えるのかによっても違ってきます。意味のある言葉なのか、無意味なものなのか、数字なのか、興味のあることなのか、などにより差が生まれます。

また、新しい情報を保持し続けることはできません。脳が「必要ない」と判断すれば、情報は消えていきます。必要がない情報がリセットされ、頭の中が整理されるのです。

一方で、覚えておきたい情報は、知的努力をすることで長期記憶に移行されます。例えば、取引先の人の名前や、仕事の手順など、大切なことには意識を向け特徴づけたり、繰り返したりします。覚えていくことができるのは、そのためです。

ワーキングメモリーの種類

ワーキングメモリーは3種類あります。

言語的・聴覚的ワーキングメモリー

言語的短期記憶(「音韻ループ」)のことです。数・単語・文章など音声で表現される情報を保持します。「読み」(黙読も含む)においても使用されます。

今、この記事を読んでいる人は、音韻ループを使って頭の中で音読をしていることになります。内容を理解して(少しの間)覚えておくことができるのは、言語的・聴覚的ワーキングメモリーが十分に活用できているからです。

視覚的・空間的ワーキングメモリー

視空間的短期記憶(「視空間スケッチパット」)のことです。イメージ・絵・位置情報などの目で見て得た空間情報を視覚イメージとして保持します。

エピソードバッファー

課題解決のために必要な情報を長期記憶から検索し、それを保持するシステム(エピソード記憶・長期記憶)のことです。上記の言語・聴覚的ワーキングメモリーと視覚的・空間的ワーキングメモリーを結び付ける役割もあります。多くの情報がここに集まります。

この3つのワーキングメモリーを監督しているのが「中央実行部」です。司令塔の役割をしています。中央実行部の容量には限界があります。そのため、注意をコントロールし切り替えを柔軟かつ効率的に行うことが必要です。

また、入力情報と関連する長期記憶を結び付ける役割も重要となります(Barkley,2006)。

ワーキングメモリーと発達障害の関係

ADHDやASD、LDの人が持つ特性とワーキングメモリー

注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)、限局性学習症(LD)といった発達障がいの人が持つ特性に、認知発達のアンバランスさがあります。そのひとつに挙げられるのがワーキングメモリーの弱さです。

視覚や聴覚情報を登録(記憶)するためには注意集中力が必要ですが、その情報をある一定の期間保持するためには、先に紹介した音韻ループや視覚的スケッチパットを使う必要があります。更に、情報を操作するためには、問題解決に必要な情報を整理し再配列することが求められます。

ADHD、ASD、LDといった発達障がいの人の中には、上記のような注意集中、視覚・聴覚的弁別、音韻処理、記憶容量、情報の操作などに問題があり、そこがワーキングメモリーの弱さに繋がっている場合があると言われています。

また一言に「注意」といっても、以下のように色々な要素があります。

  1. 必要なことに焦点をあてる選択的注意
  2. 注意を切り替える(必要のないものを消去する)
  3. 注意を維持する(集中)

特に②の力は大切です。記憶の入れ替えがスムーズにできないと、古い記憶が残ってしまい、今から使う新しい記憶に注意を向けらないですね。次の課題を行う準備ができません。

ワーキングメモリーを測定できる知能検査

ワーキングメモリーを測定することができる知能検査のひとつにWISC-Ⅴがあります。WISC-Ⅴは、5歳~16歳11ヵ月の子どもを対象に、認知の凸凹をみることができる検査です。また、16歳0か月~90歳11ヵ月が対象となる知能検査WAIS-Ⅳでも、ワーキングメモリー指標(WMI)を測定することができます。

発達障がいのお子さんの中には、WISC-Ⅴの5つの主要指標のひとつであるワーキングメモリー指標(WMI)や、4つの補助指標のひとつである聴覚的ワーキングメモリー指標(AWMI)が他の指標よりも低くでることがあります。

ただし、発達障がいを持つすべての人の検査結果で、ワーキングメモリー指標が低くでるわけではありません。検査に表れないこともありますし、そもそもASDの特性を持つ人の中には、暗記的記憶がとても強く、ワーキングメモリー指標が高くでることもあります。ワーキングメモリー指標が高くでても、ワーキングメモリーが十分機能しているとは言えないことがあるのです。

ワーキングメモリーが低いと起こりがちなこと

では、ワーキングメモリーが低いと日常生活の中で、どのようなことが起きるのでしょうか。

  • 読解(説明書や作業書の理解)や電話対応、メモを取るといった情報処理が苦手
  • 指示忘れや、紛失物、失念が多い
  • マルチタスク(同時並行処理)が苦手
    (例:いくつかの仕事を同時進行する、子どもの話を聞きながら料理をする、など)
  • 物や時間の管理が苦手
    (例:仕事の机上や部屋の整理、時間を正しく見積もって計画を立てる、など)
  • 優先順位を瞬時につけ、効率的に段取りよく物事を進めることが苦手
    (例:何から始めていいか迷ってしまう)
  • 会議やプレゼンなどで、リハーサルと違う展開や想定外の質問への対応が弱い
  • 長い話(会議など)の場で、注意を持続することが苦手
  • 切り替えが苦手
    (例:今、行っている行動や話を止めて次にいく、など)
  • エネルギー配分が苦手
    (例:スタミナ切れ、キャパオーバー) 

ワーキングメモリーは、上記のように、計算(暗算)、音読・黙読、読解、作文、推論、問題解決などで必要となります。生活・学習・行動場面において、効率よく課題に取り組むために、よりよく活動するために、そして自己管理するためにも、ワーキングメモリーは大切な能力です。

ワーキングメモリーが低いことへの対策

ワーキングメモリーが低いかもしれない、上記のような場合に、どのような工夫ができるでしょうか。いくつか紹介します。

【対策①】メモを取る

必要なことはこまめにメモを取るようにしましょう。「このくらい覚えておけるだろう」と思っても、何か刺激(別の用事や出来事、興味関心のあるものに遭遇する、話しかけられる、など)があると忘れてしまいます。

メモ用の手帳などを常に携帯できるとよいでしょう。毎回、違うところにメモをしてたり、どこかに置いたりしてしまうと、置いた場所が分からなくなってしまいます。

メモを取ること自体が苦手な人もいます。効率的で自分にとって分かりやすいメモの取り方を工夫してみましょう(例:印や略字の利用、いつも必要なワードや項目はチェックするだけにしておく、など)。ITツールの利用も検討しましょう。録音機能や写メの活用への理解を、職場の人に頼んでみましょう。

【対策②】こまめにリマインダー機能を使う

リマインダー機能を使い、スケジュールを管理しましょう。予定を入れておくだけでなく、指示を聞いたときや、「やらなければならない」と思ったときの目的、作業手順なども一緒に残しておくとよいでしょう。

また、作業をするために、いつから何を準備すればいいかもメモしましょう。下記のマークなどを書き加えて進捗段階や範囲・期限までの残り時間が一目で分かると便利ですよ。

☆=特に重要
!=注意
←→=いつからいつまでに

【対策③】集中しやすい環境をつくる

仕事や勉強をするときは、集中力が持続するように、視覚や聴覚からの余計な刺激をカットして静かで落ち着く環境を用意しましょう。机の上が整理できない時は、ボックスやファイルを仕切りや目隠しに使えるとよいでしょう。音に関しては、ヘッドホンやノイズキャンセラーを使って雑音を遮断してみてください。

【対策④】アナログツールを活用し、頭の中を視覚化する

ポストイットなどを使って、すべきこととその順番を整理、管理するのもおすすめです。

例えば、今日のうちにやるべきことをポストイット(1枚に1項目)に書き出し、やる順番に並べて貼り、終えたら剥がしていきましょう。視覚化することで、頭の中を整理できます。

to do リストは、午前午後に分かれていたり、メモ帳はタイムスケジュール記入できるようになっていて書き込みやすく便利です。

ITツールもいいですが、充電切れ、故障など予期せぬ出来事に遭遇することもありますね。ITツールも使いながら、使いやすい自分に合ったアイテムを探してみてください。

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自分で対策をした上で周囲の理解も求めたい

誰にでも得意、不得意はあります。ですが、ワーキングメモリーは、生活のあらゆる活動に影響を与えています。

注意・集中力を支え、学習、会話、思考や推論、意思決定を行っていくために必要な力となります。

そのため、ワーキングメモリーに低さがあると、さまざまな活動に支障が出ることが想像されます。ひとつのミスや失敗から周囲の評価を下げてしまうこともあるかもしれません。工夫や対策を重ねても、上手くいかないこともあるでしょう。自己理解や工夫だけでなく、身近な人に自分の苦手なことを伝え、周囲の理解や協力を得ながら少しでも過ごしやすくなることを願っています。

鈴木こずえ

鈴木こずえ

小学校・中学校でスクールカウンセラーとして15年以上勤務経験があるほか、現在は、教育相談センターのカウンセラーとして、小中高生と保護者のカウンセリングを行っている。不登校、発達障害、緘黙、行動面での問題など、成長過程での身体・精神両面におけるさまざまな相談に応えている。

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